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インタビュー 吉永 蛍「水鉢の中の九月」

 

吉永 蛍 個展「水鉢の中の九月」2021年8月21日~9月19日

夢と現実の入り交じる作品が、COYAMAギャラリーに展示されます。
毎週水曜日にはパステルを使ったワークショップも実施予定です。詳しくはこちら

○現実と非現実がつくり出す世界

吉永蛍さんが油絵でキャンバスに描くのは、子ども、白鳥やキリン、バクといったさまざまな動物。青みがかった空間には草木も生えて地面のようですが、水中のようでもあり空中にも見えます。独特な浮遊感に誘われ、現実との境界が曖昧になるような、気持ちがふっと軽くなるような、そんな不思議な作品です。

作品のテーマは、「夢と現実」と「見たい風景」。

「大学生の頃から夢日記を書いているんですが、段々と書いているうちに夢に現実世界のものが出てきたり、現実世界に夢で見たものが出てきたり、と境界が曖昧になるんです。この境目のなさを、絵で表現しています。多くの方から『浮遊感があるね』という感想をいただいているのは、わたしが体験している不思議な感覚を絵から受け取ってもらっているからかもしれません」

吉永さんの「見たい風景」は、自身が見聞きし感じてきたものが織り交ぜられてつくられています。大学を取り巻き都市と共存する自然、幼少の頃から頻繁に訪れている動物園……。それを夢や想像と交えながら、キャンバスのなかに散りばめているのです。

なかでも興味深いのが、大学周りの自然にまつわるエピソード。

「大学の最寄り駅から校舎へと歩いていくにつれ、駅ビルもあって都会的な雰囲気からどんどん森になっていくんです。空と木々しか見えないところがあったり季節によって表情ががらりと変わったり、何度見ても飽きません。道のりは30分くらいなんですが、寄り道やスケッチ、写真に収めたりして、1時間くらいかけたときもあります」

○絵画の表現の可能性は無限にある

作家としての吉永さんの原点は、物心が付いた時につくった絵本。折り紙で折った動物や食べ物を登場させ、ストーリーを紡いでいたそうです。絵を描いたり漫画をつくったり、と小さいころから創作に親しんで、絵画の魅力に出会ったのは、高校一年生のとき。

発端は、森美術館で行われていたルネ・マグリットの展示でした。空想と現実が同居するその不思議さに惹かれたと言います。

「マグリットの作品は、中学生の時に教科書か画集かで見て心に残っていて。美術館で自分の目で改めて作品を見て、衝撃を受けました。こんな世界の表現があるんだ!と。それ以降、美術とはどんなものなのか興味を持ち、古典絵画の図録を片っ端から見始めました」

たくさんの作品を見るなかで他に印象に残ったのは、マグリットと同じシュルレアリスムの画家、サルバドール・ダリ。彼らの現実を超えた空間表現は、今の吉永さんにも大きな影響を与えています。

「現実にはない空間を写実的に描いて表現しているのは、マグリットやダリを始めとする古典絵画の影響があると思います。美術を知ってから美術大学に入り、パフォーマンスや立体など他の表現方法にもたくさん出会いましたが、私が油絵を選んでいるのは、表現の可能性が無限だから。現実的な世界も非現実的な世界も創造できて、表現方法もさまざまです。例えば、絵の具の濃さによって水彩っぽくもなるし重厚感のある作風にすることもできるんです」

吉永さんが実際に絵を描く時は、透明感のある絵の具を塗り重ね、ときには削ったりしながら情景を形にしていきます。

「こんなふうに、絵の具の筆致を地層のように塗り重ねていく行為が好きだし、色を重ねていくことで自分の色合いがでてきてくるのが楽しみです」

重ねた色がなじまなくても、その上に他の色を重ねていくことで印象が変わり、味のある色味になっていくのだそうです。

 

○個展タイトル「水鉢」に込めた思い

昨年から続く新型コロナウイルスの影響で、人々の生活は一変しました。遠くへの外出ができず、知人・友人に会う機会が減り、体験による刺激や、新しいことに触れる喜びを得ることも少なくなってしまいました。

展示のタイトルの水鉢は、コロナ禍にある今の世の中になぞらえられています。

「行動範囲が制限された今の私たちは、まるで水鉢の中にいるようです。でも、本当の水鉢の中では生態系が成り立っていて、生きものはそれぞれ思い思いに過ごして生きている。以前に比べて窮屈さはあるかもしれないけど、私たちも五感を使ったり、自分自身と向き合ったり、家族と過ごしたり、植物を育ててみたり、思考を巡らせたりすることで、心に触れるものや共感できるものが見つかるんじゃないかなと思います」

加えて、水鉢を自身のエッセンスが詰まった作品にも見立てている、と吉永さん。

「私自身の幼少期の記憶やこれまでの体験を作品に散りばめています。つまり、いろいろな物が集まって1つの世界をつくっているんです。それも、水鉢のようだと感じています。COYAMAに来てくれた人には、水鉢を覗くような感覚で見てもらえたら。作品を通して、これまで私が見てきた風景に共感してくれたらいいなと思います」

今回は、パステルを使ったワークショップも毎週水曜日に実施される予定です。

どんなにささいなことでも、身近な場所で見つけた驚きや楽しみが、わたしたちの生活を彩ってくれるに違いありません。今年は五感を使って涼やかな作品とともに楽しむ夏を過ごしてみませんか。

吉永蛍

多摩美術大学絵画学科油画専攻卒業。夢と現実を行き来しながら、私の見たい風景を、「描く」ことで見つけ出しています。

HP◇https://www.hotaruyoshinaga.com/

instagram◇https://www.instagram.com/hotaru_yoshinaga/

 

Written by 松本麻美

 

過去のインタビュー

第1回 | 2021年1月 kiritsuaiko

第2回 | 2021年2月 松下美沙

第3回 | 2021年3月 岡野奏恵

第4回 | 2021年5月 イノウエエリコ