インタビュー 水落 彩
○作品の登場人物は不機嫌そうな少女たち
美術作家・水落彩さんが描くのは、時間の流れで形を変える、夜景や咲き乱れた花、水滴。
また、それを背景にたたずむ少女たち。彼女たちは絵の中から、鑑賞者であるわたしたちを見つめ返してきます。
目がつり上がり口がへの字に曲がって怒っているように見えるのは、その「かわいさ」を消費する人たちに対する反抗を表しているから。
彼らはそのかわいさを消費されることを嫌がっているはずだと、水落さんは話します。
「世の中の女の子たちはよく『かわいい』と言われますが、なかには『ほっといてほしい』と思う子もいると思うんです」
少女を作品の登場人物に描くのは、しっくりくるからだといいます。具体的な理由はわからないようですが、
大人と子供の境目にいて、何者にもなれる、といった少女に付随するイメージに、同調されているのかもしれません。
“世界”がまだ固まりきっていない少女たちのように水落さんは物事を新鮮な目で見て、自身の表現の領域をどんどん開拓しています。
○“やるべき”という縛りを捨てた先の絵
そもそも、小さい頃から絵を描くことが好きだったという水落さん。高校生になると美大専門の予備校へ通い、美術大学に日本画専攻で入学しました。ところが大学卒業後、進路に迷う時期があったそうです。
「何がやりたいのかわからなくなって、模索する時期が5年ほど続きました。その時期には漫画家を目指したりもしましたが、
大学生の時から習っていたコンテンポラリーダンスの先生に
『高校生までにやりたかったことが水落さんの本当にやりたかったことなのではないですか』と言っていただいたことがあったんです。
ちょうど漫画家を目指す生活の忙しさに体調面で不安を感じていたこともあり、背中を押されて美術を改めて志すことにしました」
そこで思いついたのが、「セツ・モードセミナー」で学び直すこと。セツ・モードセミナーは、
ファッションイラストレーターとして活躍した長沢節さんが開いた美術学校。2017年の閉校まで、長沢節さんの「自由な精神」を伝えていました。
その「自由」という言葉を目にしたことが、水落さんの入学のきっかけとなりました。
「受験勉強で学んだ写実性や構図、色彩構成を意識した書き方は、どうしても硬くなってしまう。
それに、ルールを気にしながら制作するのは私にとってとても辛いことでした。絵は自由なものだから、
ルールに縛られずに表現したい。それこそセツ・モードセミナーの精神のように、自由に。
自由を追求することによる苦労はもちろんありますが、 “やるべき”という縛りを捨てた絵はどういうものなのだろうと知りたくなって、制作を続けています」
○光と陰影で舞台をつくる写真表現
そうして自由を求め始めてから9年。水落さんの創作は変化してきました。
「2015年に、あるギャラリーのオーナーが絵をとても褒めてくださって、
さらに作家としての活動についてもいろいろ話してくれました。変わってきたのはそれからです」
自分の作品が評価され、活動の仕方までアドバイスを得た事が、自信につながったのだそうです。
この経験で、もっと直感的な創作に踏み切るようになりました。
最近は光と影を駆使した作品づくりにも挑戦中。
絵と並行して制作していた女の子の人形を、並べて写真に撮ってみたら「すごく楽しかった」ことが、糸口になったそうです。
「人形を置いて撮影すると、本当にその人形が現実の世界で生きているように見えたりするんです。
それがとてもおもしろくて、絵でも同じようにやってみようと考えました」
水落さん自身が描いた少女を輪郭に沿って切り取り、布や植物、小物などを背景に写真を撮る。
ピントを操作して背景をぼやかすと、さらに現実味に迫ってくる。
それを繰り返していくうちに、ライティングにもこだわるようになったそうです。
「最初は組み合わせやピントを工夫して楽しむだけでしたが、ふとしたとき、
光も状況ももっと自由に操れるのだから遠慮せずにもっといろいろ試してみてもいいのかもしれないと思って。
光や全体の陰影のバランスを見ながら、試行錯誤するようになりました」
コンテンポラリーダンスでの創作がヒントになることもあるようです。
「制作の支えになっている部分もあると思います」
例えば、詩や言葉から動きをつくることが、単語をつないで作品を構想することに。また、
「身体の動きで、スタジオ内にある情景をつくり出す」という考えが、自然と絵画による作品の制作で、舞台と登場人物を意識することに。
こうして自身が経験してきた一つひとつが水落さんを助け、自身の探究心と合わさることによって、より自由な作品へと昇華させてきたのです。
○居心地がいいCOYAMAで行う展示「光の家」
今回COYAMAでは、「光の家」というテーマで展示いただきます。
家というのは、水落さんにとって特別な意味を持っているようで、砦のように感じることがあるそうです。
「家にひとりですごしていると、自分とまわりの空間の境目があいまいになっていく感覚があります。
外に出て人と話すと、途端に自分の形に戻る。だから、家の中にいるのは、蛹のなかにいるような……
守られているような感じではないかと考えています。COYAMAを初めて訪れたとき、光がなかにやわらかく差し込んでいて、
とても居心地がいい家だなと思いました。そのイメージから『光の家』というタイトルにしました」
「自由と聞くとワクワクする」と話す水落さんだからこそ、わたしたちにとって当たり前になっている「家」という存在も、
改まった見え方や新しい見え方を提示してくれるに違いありません。どのような写真やイラスト、立体の作品が並ぶのか、乞うご期待です!
――
水落彩
物心ついた頃から絵を描き始め、幼少期をマレーシアで過ごす
2009年 東京藝術大学絵画科日本画専攻卒
セツモードセミナー中退
HP◇https://suirakusai.myportfolio.com/
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Written by 松本麻美
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