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インタビュー 酒井 真織

日常の風景とその空気感を鉛筆と水彩で表現する、イラストレーターの酒井真織さん。
今回の個展では、アニメーションも展示いただく予定です。
国内外の雑誌の挿絵や書籍の装丁で活躍する酒井さんの、制作のテーマとルーツを伺いました。

◯テーマは、日常のなかにある小さな幸せや喜び

読書をする人、薪ストーブの前であたたまる猫、雨の降る窓辺、コーヒーメーカーをアレンジした朝食自動調理器。酒井さんはそんな、ほっとするような日常の風景を、ときにユーモアも交えながらイラストにしています。

繊細な線で質感まで描写された作品は、まるで光や空気もまるごと切り取ったかのよ う。表現の道具は、主に鉛筆と水彩です。
  「鉛筆での表現にはこだわりがあるんです。いまではデジタルでも見分けがつかないほど着彩や線画タッチの精度が上がっていますが、鉛筆のあたたかみや紙の質感は、デジタル ではどうしても表現できないと考えています。制作では、必ず紙に鉛筆画を描くこと から始めています。もちろんデジタルでしか表現できない魅力もあるので、ベースの線画 は鉛筆で描いて塗りはデジタルで着色することもあります。手描きの風合いを大切にし ながら両方をうまく組み合わせて表現の幅を広げられたらと考えています」

“イラストのあたたかみ”というこだわりは、酒井さんの制作のテーマにも通じています。

「自分の作品全部が、”日常のなかにある小さな幸せや喜びなど”をテーマにしています。普段の生活で忘れてしまいがちなものでも、絵にすることでもう一度確認できる。そういう作品にしたいと思っています」

イラストだけでなく、その一部分をアニメーション化した作品も。

ひらひらと舞う黄色いチョウやマグカップからくゆる湯気、ページが繰られる本など、イラストの一部分が動く様子からは、静かで豊かな時間や小さな空気の流れを感じます。

それも、日常の空気感を表現するために、選んだ手法だそうです。

 

◯アートに興味がない人にも見てもらいたい

日常のなかの小さな幸せが制作テーマとなったのは、イラストレーターになることを決意した、7年前のこと。

「デザイン専門学校で広告デザインを専攻していましたが、卒業後の就職に悩んでロンドンに留学しました。小さい頃から好きだったイギリスのアートやカルチャーをもっと学びたいという理由から選んで、滞在中に作品制作をしてWebで公開する日々を過ごし、帰国後には、フリーでイラストレーターでやっていく決意をしました。ロンドンは、美術館は無料のところが多いし、コンビニやお店がそんなに遅くまで開いていなかったり、娯楽施設は少なかったりしても、あちらこちらにある公園で友達とおしゃべりするだけで楽しいところでした。音楽が街中にあふれていて、何もなくても日常を楽しかったあの時間が、日常のなかにある幸せを探そうと思ったきっかけかもしれません」

そのときにはすでに、雑誌や広告など商業に向けて活動することを決めていた酒井さん。その根っこには、「アートに興味がない人も目するような場所に出して、自分の絵を見てもらいたい」という気持ちがあったと言います。

きっかけとなったのは、小学生のときにイラストレーター・326(ミツル)さんの作品を見たこと。音楽グループ「19」(ジューク)のアルバムジャケットやJRの広告で、イラストレーターという仕事を初めて知ったのだそうです。

 

◯いつか自分が納得できる作品を

そんな酒井さんはいま、国内外の雑誌やパンフレットの挿絵、書籍の装丁なども担当し、人気イラストレーターとして活躍中。そのなかでも、広告デザインを勉強した知識を存分に活かされています。

「例えば、デザインも含めた紙面のバランスを見たり、コンセプトを踏まえたうえでイラストの方向を決めたり。そういうことは勉強したからこそすぐできているのだと思います」

今後の目標を伺うと、クライアントもその先のお客さんも酒井さん自身も、「これはいい!」と思えるように頑張りたい、と答えてくださいました。

「できあがったものを納品して印刷されたものを見ると、反省点が出てくるんです。とにかく納得できる作品をつくりたいです。理想は、掲載された雑誌を見て、『かわいい』『素敵』などと心を動かしてもらえる作品です」

アニメーションを活かして、ウェブマガジンなどのデジタルメディアにも挑戦したいそう。自身の理想にとても真摯に向き合うその姿に、いずれその目標を叶えるだけでなく、さらに進化した表現を見せてくれそうな気がします。

COYAMAでの個展では、アニメーション作品も含めて30点ほど展示いただく予定です。A3サイズほどの作品から15cmほどの小さめの作品まで、こだわりの鉛筆のタッチをじっくりと間近に見ることができます。

酒井さんのイラストが、さわやかな気分やあたたかい気持ちにしてくれたり、自身の日常の幸せを振り返ったりするきっかけになるかもしれません。

作品を見た後は、「懐かしいような、あたたかい雰囲気」と酒井さんも推してくれるCOYAMAの空間で、コーヒーでも飲みながらゆっくり過ごしていただければと思います。

 

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酒井真織

イラストレーター
1988年生まれ
桑沢デザイン研究所卒業

国内外の雑誌の挿絵や書籍の装丁、WEBなどの様々な分野でイラストを制作。イラストの一部が動くGIFアニメーションも多く制作している。
instagram◇https://www.instagram.com/maori_sakai_illustration/

HP◇https://www.maorisakai.com/

Written by 松本麻美

 

過去のインタビュー

第1回 | 2021年1月 kiritsuaiko

第2回 | 2021年2月 松下美沙

第3回 | 2021年3月 岡野奏恵

第4回 | 2021年5月 イノウエエリコ

5回 | 20217月 高橋ヤヒロ

6 20218 吉永

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8 202111 Yuhei Paint

9 20221 松下美沙