インタビュー 潑
インタビュー 潑 個展「潑 hachi -2021-」
イラストレーター・潑さんが、これまでに描いた作品を展示します。潑さんにとって初めてとなる個展です。
○この展示が活動のスタート
イラストレーター・潑(はち)さんにとって、今回の展示は初めての個展。活動の出発点となるため、
展示名を作家名と同じにしたそうです。まず、名前の由来を伺いました。
「『潑』は、“はつ”と読むことが多いんですが、私の名前は“はち”と読みます。縁起が良い末広がりの八と同じです。
この漢字には、水がはねる、勢いが良い、といった意味があります。常に流れて淀まない水のように私の仕事も止まらないといいな、という願いを込めました」
潑さんがイラストレーターになることを決めたのは、突然のことでした。きっかけは、職場でのある会話。
「契約社員として働いていて、少し前に上司から『契約の期間が過ぎた後も、続けて働いてくれないか』と打診されたんです。
ありがたいなとは思ったものの続ける事には乗り気ではありませんでした。そこで、『やりたいことがあるので考えさせてください』とお返事したんです」
ではなにをやりたいのかと上司に聞かれ、「絵を描きたい」と答えた潑さん。それまではなんとなく考えていたことでしたが、
言葉にしたことで「本当に絵を描いて、やっていこう」という決意になったそうです。
「ただ毎年続けていくだけ。何が起こるかわからないから、だからのんびり構えていこうと思っています」
考えて楽しいことだったら実行したほうが良いと話す潑さんは、朗らかで笑顔が絶えません。前向きな人柄が印象に残ります。
○自由に発想し、自由に描くスタイル
「私が絵を描き始めたのは、2015年です。その年に、セツ・モードセミナーという美術学校に入学しました」
潑さんの制作は、1つのモチーフをベースに自身の好きな事物や連想した事柄をどんどん反映させていくスタイル。
さまざまな色彩、さまざまなモチーフがキャンバスに乗せられ、その世界はまるでファンタジーです。
「学生の頃から、制作中に目にしたものや考えたことを盛り込んでいました。モデルを描く授業で、
モデルさんの髪をピンク色にしたこともありました。その時の季節が春で、陽光が窓から差し込んでいたんです。
『春の日差しだなぁ』と思ったのをそのまま髪色に反映させました。当時から自由に発想していたし、自由に描かせてもらっていました」
《花神さん》という、ニカブ(目の部分以外をすっぽりと覆う衣装)を身に着けた女性をモチーフにした作品は、
裾の隙間からたくさんの動物が顔をのぞかせ、花や雪が女性を囲んでいます。
「テレビで見たニカブの女性が印象に残って、モデルに選びました。でも、いざ描き始めたら思っていたよりも
シンプルになってしまって。描き始めてからの2ヶ月間、悩みながら『そういえば花も一緒に映っていたな』とか、
『雪の結晶もいいな』『動物も』と少しずつ描きこんで完成させました」
今回の展示のDMに使われた作品は、また違う制作過程だそうです。伺うと、ある発想をもとに生まれた物語がありました。
「こちらの作品は、猫をモチーフにしました。発端は自宅で飼っている猫。丸まってくつろいでいるように見えるけれども
こちらを少し気にしている様子が可愛くてスケッチをしたんです。そのスケッチを後で見返したとき、
『癒しを与えてくれる存在だけどUFOっぽい不思議さもある』と思いました。そこから、毎日の暮らしに
疲れきってしまった人が猫に癒しを求めて心を侵略され、猫の世界に引き込まれてしまったというストーリーが生まれました。
UFOである猫の頭部には窓が付いていて、身体部分に収容された人々がこちらの世界を見ています」
○ファンタジーな作品たちの源とは
これらの作品の話からは、潑さんに豊かな発想の力が備わっていることが窺えます。その源はなんでしょうか。
「3歳でビデオの巻き戻し・早送りを覚えてから、ディズニーの『メリー・ポピンズ』を何度も繰り返し見ていました。
傘を差した女の人が風に乗って降りてきたり、おじいさんが笑いすぎて空に飛んでいってしまったり、
現実ではありえないことが子どもたちの周りで起こる映画です。そんな奇抜さに、惹かれたんだと思います。
それから『きょだいなきょだいな』という絵本にも影響を受けたと思います。絵を手掛けた降矢ななさんの作風も好きですが、
平野に落ちてきた巨大な扇風機や瓶で子どもたちが遊ぶ様子がおもしろい。昔から、一人遊びをしたり空想して遊んでいました。
その発想の基には、この2つの作品の突飛な発想があったのだと思います」
もう1つの作品の種は、生活の中で見つけた物事を描きためているノート。常に持ち歩いて、惹かれたものを、スケッチやメモしています。
作品に着手する前にノートを開き、そこから今の自分が『描きたい』と思うものをピックアップしているそうです。
「スケッチから得たイメージを作品として表現するために、その時の自分なりに描ききっています」
「いいな」と思ったもの、モチーフから連想したもの、考えたストーリー……。さまざまなものが、
制作時の彼女自身の自然な感性そのままに写し出されるからこそ、みずみずしく生き生きとした作品が生まれるのかもしれません。
展示には、新作も出されるそうです。現在の潑さんが感じ発想したものに触れるのが、とても楽しみです。
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潑
1982年神奈川県生まれ
セツ・モードセミナー卒業
小学館アカデミー銀座Sアトリエ在籍中
instagram◇https://www.instagram.com/mo.zzz_3/
Twitter◇https://twitter.com/10_HaChi_03
Casié◇https://casie.jp/artists/135(アーティスト名:天窓屋)
Written by 松本麻美
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