インタビュー イノウエエリコ
イノウエエリコ個展「Apartment」 2021年5月5日~6月6日
ギャラリー空間を女の子の住むアパートの一室に見立てて、イラストレーターであるイノウエエリコさんの立ち上げた
ブランド「tororo」(とろろ)の日用雑貨や布地などを展示します。
◯絵がふとした瞬間にリアルになる
とてもエネルギッシュなイラストレーター、イノウエエリコさんの作品は、彼女の人柄同様にエネルギッシュ。
モチーフにしているのは、野菜や果物、花、食べ物、風景など、わたしたちに身近なものです。
いずれも筆のタッチや水彩による色の濃淡で、みずみずしさや楽しそうな雰囲気が印象的。
どんな風に描いているのでしょうか。
「トマトやジャガイモなどの野菜は、下書きせずに描いています。画面の構成を決めず、『今日はまんなかから』『今日は左上から描こう』と
その時の気分にまかせて、画用紙に絵の具を乗せています。風景は違う方法をとっていて、写真や自分自身の感じたことをもとに、
下書きしています。描き始めにはすでに構成ができている状態です」
イノウエさんは「具象的に描こうとは全然してないんですけど」と言い、ふとした瞬間に本物のように感じるのだ、と言葉を続けます。
「本当にモチーフによって変わりますが、お花や野菜、食べ物を描いている時に、いい匂いがしていくるんです。
風景画は、その場面の空気の匂いがしてくる。そういう時にはいつも、『ああ、これはいい絵になるな』と思うんです。
トマトであれば、かわいい、おいしい、つやつやしているその魅力を表現したいと思っていることが、核になっているのかもしれません」
イノウエさんの感性が作品に込められていくうちに本物に近づき、観る人にエネルギーを伝えるのでしょう。
◯行動によってひらかれてきた自身の道
イノウエさんは、日中は会社員として仕事し、夜間にイラストを描く生活を送っています。モチベーションはなんでしょうか?
「筆で絵の具を画用紙に塗ったり、ペンを紙の上で滑らせたりする感触とか、絵で画用紙が埋まっていくのが好きなんです。これが本当の私の原動力ですね」
絵を描くのが好きだと気づいたのは、高校生の頃。イラストレーターになることを意識しだしたのは、大学生の時でした。
在学中にデザインフェスタへ行くようになり、そこで会った好きな作家さんが美術学校の「セツ・モードセミナー」出身だったことで、
美術大学へ行かなくても絵の勉強ができることを知ったのです。
大学を無事卒業し就職したイノウエさんは、セツ・モードセミナーの夜間に通うことを決断。2年間の学びを経て、
イラストレーターとしての道を歩むことになったそうです。
「セツに通っていた当時はこんなこと全然予想してなかったんですよね。でも、退職してフリーランスで活躍していた会社の先輩が、
私のイラストを使ってくださることになったんです」
それがイノウエさんの初仕事、野菜の絵柄のカレンダーとなりました。イラストレーター4年目となる今もシリーズは続いています。
「野菜と言えば、雑貨メーカーのオリエンタルベリー様が私の野菜のイラストを使用くださり、現在も文房具を販売いただいています。
オリエンタルベリー様は『クリエイターEXPO』という、デザイナーやイラストレーター向けの商談会に出展したときに出会いました。
それ以降、ずっとお世話になっています」
そもそもカレンダーへの起用が決まったのも、イノウエさん自身が次々と行動を起こすことで、道がひらけているようです。
◯4年目の新たなステップ
イラストレーターとして活動を始めてから4年目となる今、イノウエさんは新しいブランド「tororo」(とろろ)を立ち上げました。
ブランドに込められた思いは、「もっとみんなの日常がカラフルになってほしい」というもの。tororoという名前の由来は、食べ物のとろろ。
「好きな食べ物なのですが、なじみ深く親しみがあること、変幻自在の物体でおもしろく、体によくておいしい、ということにも由来します」
ラインナップは、ハンカチにもランチョンマットにも使えるマルチクロス、トートバッグ、花瓶、ステッカー、グラスなど。
ブランドのお披露目は、5月5日から始まる個展で行われます。
「今回の個展のコンセプトは『アパートメント』。tororoのグッズを使って、女の子のアパートの一室を表現します。
tororoのグッズはどれも、日常に寄り添うもの。雑貨の飾られた姿ではなく、普段の姿を想像してもらえればと思います。
グッズにプリントされる原画も飾る予定です」
イノウエさんがCOYAMAで開く個展は、2019年7月、2020年7月に続いて3回目です。会期限定で、イノウエさんがコップやお皿、
ビンなどのガラス製品に絵付けします。会場で用意したグラスのほか、みなさんの家に眠っているガラス製品も受付ける。
「これまでのCOYAMAでの展示で思いついたことです。印刷所をリノベーションして新しい形で活用しているCOYAMAみたいに、
古いコップにわたしが絵付けすることで、新しいコップの姿として楽しんでもらえるんじゃないかと思っています」
展示に来てくれた人に対しても、「こういう時代だからこそ、COYAMAに来てよかったと感じてもらえたら嬉しいし、
一年のなかでも記憶に残る日になったらうれしいです。『今日が楽しかったから、明日も楽しい日になりそうだな』と
思ってくださるのが一番です」と輝く笑顔で語ってくださいました。
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イノウエエリコ
神奈川県出身。セツ・モードセミナー卒。食べ物のイラストや風景、植物のイラストを描くのが好き。
Written by 松本麻美
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